知財戦略:他社との共同

知財の別の展開方法としては、他社との共同で市場の全体価値を高めることで、短期的に個別の知財の権利を譲歩しても全体としてより大きな価値を手に入れるという方法があります。
業界で新規の技術標準を作る団体にメンバーとして参加するというのも他社との共同の一つの例です。競合企業同士が集まって特定技術の開発をして技術を標準化する際に、欧米では知財面で参加企業が抜け駆けをしないように、業界標準を作る団体に参加した企業は必ず他社にその技術をライセンスしなくてはならないという運用がされます。特にヨーロッパでは厳しく運用されます。個別企業にしてみると、自社で単独開発したほうが良いか、将来的に業界標準になるであろう技術に参画して、市場全体を大きくしてその中で一定のシェアを獲得したほうが有利になるかどうかの判断が必要となります。

別のよくある例では、他社に自社の知財を無料で利用させることで、市場全体の拡大を狙う方法です。典型的には、IT企業が自社開発したソフトウェアを他社に無料で利用させ、それを利用する顧客を増やすことで、別の売上を上げようとするものです。グーグルが自社で開発したソフトウェアのAPIを無料で公開して他社に使ってもらい、市場を拡大したり、アップルがiOSのアプリ開発用の各種ツールを公開し、各アプリベンダーがソフトウェアを独自に開発できるようにするのがこのケースです。一方で、アップルやグーグルは他社が開発したソフトウェアを自由に市場に投入させるわけではなく、自社のビジネス展開に問題となり得るようなソフトウェアについては、市場への導入を認めないというような施策も合わせて実行します。
グーグルやアップルが行うソフトウェアの監査は、ソフトウェアの質を担保することで、消費者が安全に使えるようにし、利用を増やすことで、市場全体のパイを大きくすることにつながります。

他社との共同を競合企業やサプライヤーではなく、顧客企業に対して行うことも方法です。ライセンサーがライセンシーに対して、ライセンシーが行った技術改良をライセンサーに開示することというようなライセンス契約はよくありますが、これにとどまらず、顧客と一緒にイノベーションをするというアプローチになります。

知財戦略:知財のライセンス

知財の売却のように知財自体は他社に渡さず、自社に留保したまま、他社にその利用を認めるのがライセンスです。特許や実用新案、著作権や商標権のライセンスが行われます。
基本的な考え方としては、自社で知財を利用して行う事業収益と他社にライセンスした場合のライセンス収益を比べ、ライセンスの方が大きな収益が得れらればライセンスを実行するということになります。他社の方が自社よりも効率的な事業運営をしており、自社に無いマーケティング能力があるのであれば、自社で事業展開するよりも他社にライセンスした方が容易に収益を上げられます。ライセンスをすることで、自社の設備能力を拡充したり、その製品への需要を高めたりすることが出来ます。例えばモンサント社のラウンドアップという農薬の事業戦略は典型例です。
ラウンドアップは動物には無害ですが、雨水に分解されるまでは殆どの植物を駆除する性質があります。モンサントはラウンドアップの特許を取得していましたが、2000年には失効しました。ラウンドアップの農家にとってのメリットは雑草駆除がとても楽になるというものですが、逆に使うタイミングを間違えると育成している植物にダメージを与えてしまうので農家にとって使い方が難しいものでした。モンサントはこの問題を解決するために、別の技術を開発しました。遺伝子組み換えで「ラウンドアップレディ」という種子を作ったのです。これはラウンドアップに耐性がある遺伝子を組み込んだ種子で、この種子を作る技術と、種子そのものが特許化され、これら特許は2014年まで有効でした。その後モンサントは技術を更に改良し、より耐性のある種子を開発し、これも2020年まで有効な特許としました。
モンサントはこれら知財を、他社が遺伝子組み換え作物でビジネスをするのを排除することにも使えたのですが、実際は全く逆のことをしました。2種類のライセンスを行いました。一つ目は数百の種子会社にラウンドアップレディ種子の開発と販売を認めるもので、もう一つは、BASFやダウ、デュポンといった大手競合会社にラウンドアップレディ遺伝子を他の改造遺伝子と一緒にして、耐乾燥や耐虫害といった更に別の機能を持った種子を作るライセンスを認めたのです。
この戦略で、モンサントの事業は大成功を収めました。他社の製造能力を利用して自社で投資するよりも圧倒的に早く大量に製造能力を確保し、市場拡大に繋げることが出来たのです。また、技術ライセンスで他社の技術開発をロックインすることで、常に他社がモンサントの技術を利用するような状況を作り上げました。ライセンシーに対して、初期の特許技術のライセンスを中止するということを伝えて圧力をかけ、少し改良した特許寿命がもう少し長い別特許製品への乗換を迫るのです。既に大きな売上をモンサント技術を使って上げているライセンシーはライセンス中止の圧力を受けると、売上を失いたく無いので、新製品の方のライセンスをするようになるのです。更にラウンドアップが農家にとって非常に重要なものとなると、ラウンドアップ耐性をもたらす遺伝子技術で作られる複合商品は競合他社にとっても重要なものとなり、他社の新技術による新製品の売上げからもモンサントは収益を上げられるようになったのです。
ライセンスを上手に使うことで市場の競争環境を定義することまで出来るので、ライセンスをどのように行うかということは企業経営にとって益々重要になってきているのです。

知財戦略:知財の売却

知財の売却は本質的に他の資産の売却と変わりありません。その資産が他人の手に渡った方が価値が出るのであれば売却した方が良いということです。知財でこれがあてはまるのは、知財を生み出した発明家には製造能力はマーケティング能力が不足して、知財の価値を十分に活かせない場合が典型的です。 さらに読む

知財戦略:特許の活用策と競合企業

特許保有者がビジネスを行う際によく出る話は、「特許で独占し、商品の価格を高く設定して、利益率を高められるのではないか。」というものです。市場での独占を目的にビジネスを行うと、競争条件が変わってしまったり、競合会社のイノベーションへの投資を加速させる結果となったり、独占的に得られる市場が小さいものになったりするといった、ネガティブな結果が起きることがありえます。 さらに読む