知財戦略:特許の活用策と競合企業

特許保有者がビジネスを行う際によく出る話は、「特許で独占し、商品の価格を高く設定して、利益率を高められるのではないか。」というものです。市場での独占を目的にビジネスを行うと、競争条件が変わってしまったり、競合会社のイノベーションへの投資を加速させる結果となったり、独占的に得られる市場が小さいものになったりするといった、ネガティブな結果が起きることがありえます。
競合会社にライセンスしたり、場合によっては特許を公開した方が結果が良いこともありえるのです。
特許権は市場機会を独占する機会を与えるものです。しかし、この市場機会の価値は競合企業の動きに左右されます。例えば企業が重要な特許を取得したため、競合企業がマーケティングキャンペーンを中止すると、自社のシェアは上がるかもしれませんが、市場全体のパイは縮小し、売上は減るかもしれません。これは市場への投資が自社だけでなく他社にもメリットがあるような場合に発生する現象です。例えば電気自動車の有用性を消費者に説くようなキャンペーンを想像してみてください。ある会社の電気自動車の宣伝はその会社の電気自動車のためだけでなく、一般的に消費者に対して電気自動車の有用性を宣伝することになり、他社の電気自動車にとっても宣伝になることになります。市場シェアが高いほど、宣伝をする動機付けは強くなり、シェアが低いほど動機付けが弱いことになります。このような状況で特許による独占的権利を市場シェアが低い企業が強力に主張することは、市場シェアの支配的な企業だけでなく、シェアが低い自らに対してもダメージとなります。
P&Gは2000年に家庭用の歯のホワイトニング市場に圧倒的低価格の革命を起こしました。P&Gの特許技術は歯にホワイトニング成分が粘着し、長時間性能が持続するというものでしたが、P&Gの特許戦略は巧みで、同様な製品を競合が作ることを不可能にし、更にP&Gブランドのオーラルケア製品全般で高いシェアを獲得することに成功しました。競合であるコルゲートの動きは、P&Gの家庭用オーラルケア領域での収益性自体を破壊するために、特に際立った性能の無い製品を低価格で投入するというものでした。競争の結果、そこから回復することはもはやないレベルまで価格は激しく下落しました。
この特許は、例えば、P&Gがコルゲートにライセンスしていれば、もっと良い結果を会社にもたらすことが出来たはずで、P&Gとコルゲート双方の収益性はより高かったはずです。
特許によって独占的地位を保有することが望ましいかどうかは、競合がどれだけ市場全体への影響力を持ちうるかによります。競合が強い影響力を持つ場合には、特許権者は競合との協力的な関係を考慮した方が、特許権者のより大きな利益になる可能性が高いです。