知財戦略:知財のライセンス

知財の売却のように知財自体は他社に渡さず、自社に留保したまま、他社にその利用を認めるのがライセンスです。特許や実用新案、著作権や商標権のライセンスが行われます。
基本的な考え方としては、自社で知財を利用して行う事業収益と他社にライセンスした場合のライセンス収益を比べ、ライセンスの方が大きな収益が得れらればライセンスを実行するということになります。他社の方が自社よりも効率的な事業運営をしており、自社に無いマーケティング能力があるのであれば、自社で事業展開するよりも他社にライセンスした方が容易に収益を上げられます。ライセンスをすることで、自社の設備能力を拡充したり、その製品への需要を高めたりすることが出来ます。例えばモンサント社のラウンドアップという農薬の事業戦略は典型例です。
ラウンドアップは動物には無害ですが、雨水に分解されるまでは殆どの植物を駆除する性質があります。モンサントはラウンドアップの特許を取得していましたが、2000年には失効しました。ラウンドアップの農家にとってのメリットは雑草駆除がとても楽になるというものですが、逆に使うタイミングを間違えると育成している植物にダメージを与えてしまうので農家にとって使い方が難しいものでした。モンサントはこの問題を解決するために、別の技術を開発しました。遺伝子組み換えで「ラウンドアップレディ」という種子を作ったのです。これはラウンドアップに耐性がある遺伝子を組み込んだ種子で、この種子を作る技術と、種子そのものが特許化され、これら特許は2014年まで有効でした。その後モンサントは技術を更に改良し、より耐性のある種子を開発し、これも2020年まで有効な特許としました。
モンサントはこれら知財を、他社が遺伝子組み換え作物でビジネスをするのを排除することにも使えたのですが、実際は全く逆のことをしました。2種類のライセンスを行いました。一つ目は数百の種子会社にラウンドアップレディ種子の開発と販売を認めるもので、もう一つは、BASFやダウ、デュポンといった大手競合会社にラウンドアップレディ遺伝子を他の改造遺伝子と一緒にして、耐乾燥や耐虫害といった更に別の機能を持った種子を作るライセンスを認めたのです。
この戦略で、モンサントの事業は大成功を収めました。他社の製造能力を利用して自社で投資するよりも圧倒的に早く大量に製造能力を確保し、市場拡大に繋げることが出来たのです。また、技術ライセンスで他社の技術開発をロックインすることで、常に他社がモンサントの技術を利用するような状況を作り上げました。ライセンシーに対して、初期の特許技術のライセンスを中止するということを伝えて圧力をかけ、少し改良した特許寿命がもう少し長い別特許製品への乗換を迫るのです。既に大きな売上をモンサント技術を使って上げているライセンシーはライセンス中止の圧力を受けると、売上を失いたく無いので、新製品の方のライセンスをするようになるのです。更にラウンドアップが農家にとって非常に重要なものとなると、ラウンドアップ耐性をもたらす遺伝子技術で作られる複合商品は競合他社にとっても重要なものとなり、他社の新技術による新製品の売上げからもモンサントは収益を上げられるようになったのです。
ライセンスを上手に使うことで市場の競争環境を定義することまで出来るので、ライセンスをどのように行うかということは企業経営にとって益々重要になってきているのです。