企業がNPE訴訟に対抗するには(1)

NPEとは

日本企業の海外進出が増えるにつれて、日本企業が海外で訴訟に巻き込まれるケースは益々増加しています。訴訟慣れしておらず、利益を上げている日本企業は訴訟の格好のターゲットになりやすいのです。
アップルとサムソンのように同一業界内の競合会社が訴訟を行い、相手の競争優位性を奪うのが従来の知財訴訟の主流でしたが、最近は競争優位性の為ではなく純粋に特許で利益を上げることを目的とした訴訟が増加しています。特許を集めて実際には自分では使わず、もっばら他の会社を特許侵害で訴えることを行う会社が出てきたのです。このような会社はパテント・トロール(特許ゴロ)と呼ばれて、当初は例外的なものと思われていたのですが、実際は合法である上に、高い利回りが出るということで、ファンドが投資対象にするというようなことも起きて、ここ最近急速に増えています。実際、ボストン大学の調査によると、パテント・トロールによる訴訟で、米国の技術系企業が2011年に支払った額は、290億ドルを超えると言われています。
名称もパテント・トロールというよりは、より中立的な意味で特許不実施主体(Non-Practicing Entity (NPE))と呼ばれるようになってきて、通常の事業会社とあまり見分けがつかないようになってきています。

日本企業としては、海外で事業展開をするにあたって、NPE訴訟をどのように取り扱うかは今や避けて通れない課題となりつつあります。
NPE訴訟からの防衛を個別企業が如何に行うか、NPEを使った企業向け防衛サービスも米国では出始めています。NPEにはNPEで対抗するということです。
実際NPEが全て悪いということはなく、使いようによっては、特許権利者の権利を守るのに有効であったりします。例えば日本の特許でNPEを構成し、海外企業で日本の知財を侵害している企業を訴えるというようなことも可能です。


NPE訴訟とは何か?

近年、特許侵害訴訟が急増しています。その大きな原因を作っているのが、「特許不実施主体」(Non-Practicing Entity。以下、NPE)と呼ばれる会社です。NPEは、「企業相手にNPE訴訟を起こす」という目的のためだけに、発明者や企業から特許を買って訴訟を起こし、その特許技術を他社が利用した際に発生する特許使用料によって収益を得ています。一般的に、NPEが自ら製品を販売したり当該技術を使用したりすることはありません。
数年前まで、定期的に特許侵害訴訟を起こす会社はごくわずかでした。その一つがRonald A. Katz Licensing社です。同社は、ボイスメールをはじめとする通信系の特許を広範囲に集め、20億ドルを超える和解金や特許使用料を得たと言われています。ここまで成功した会社は少ないものの、こうした事例に触発され、真似をするNPEが増えているのです。
NPEは、特に技術系の企業等からは、「技術革新を妨げコストを増加させ、消費者に害を及ぼしている」と言われ、「パテント・トロール」(トロールとは、「怪物」の意味)と批判的に呼ばれることもあります。しかし一方で、「NPEは、これまで大企業相手に自分の特許権を行使できなかった、小規模企業や個人発明者を守っている」と、NPEを擁護する人もいます。

米国の上院や裁判所、PTO、連邦取引委員会(Federal Trade Commission。以下、FTC)等は、NPEの活動を制約し、できるだけ技術革新が妨げられることがないよう、バランスをとろうとしています。NPE訴訟に歯止めをかけようという動きも一部では起こっていますが、現在もなお、特許損害訴訟の大部分はNPEによって提起されており、NPE訴訟の脅威は無視することができません。
NPEが台頭する前は、多くの特許侵害訴訟は、同じ業界内で競合する企業間で起こっていました。たとえば、ある技術の特許を取得した医療機器の会社が、「競合会社がその技術を真似した」と信じて訴える、といった場合です。もちろん現在でも、そうした特許侵害訴訟は毎年何百件も起こっています。
しかしこのようなケースにおいては、特許権者は単に「競合会社が自社の特許技術を使うのを止めさせる」ことだけを目的としていることが多く、その目的は和解によって、あるいは「裁判所の命令により、競合会社が、その技術を使った製品を販売するのを差し止める」ことによって達成されます。こうした競合会社間の特許訴訟においても、時には数百万ドルから十億ドルを超えるような多額の損害賠償金の支払いが発生することがありますが、損害賠償は二次的目的であることが少なくありません。
競合会社間の訴訟は、通常、極めて激しい争いになりますが、和解に至りやすい側面もあります。たとえば、特許侵害で訴えられている会社が、問題の技術の使用を避けるよう製品を設計し直せば、リスクや負債を最小限に抑えることができます。それによって原告側の会社も満足するため、和解への道が開かれやすいのです。
また、競合会社間の訴訟の場合、特許侵害で訴えられている会社が、別の特許を独自に所有している可能性もあります。そうなると、訴訟を開始した会社は、相手から逆侵害で訴えられるリスクがあるため、行動を制限されます。こうしたケースでは、被告側が所有している特許が交渉材料に用いられ、技術のクロスライセンスという形で和解がもたらされます。顧客への影響等、ビジネス上の理由が、訴訟当事者を和解へと向かわせたり、特許侵害訴訟の提起を抑制したりすることもあります。

しかしNPE訴訟の場合、状況は全く異なります。
まずNPEには、一般的な特許権者――自社で製品販売を行っているような――が直面するようなビジネス上の制約は一切ありません。
たとえば、ソフトウェアを銀行に販売している会社が特許侵害訴訟を起こす場合、たいていはその技術を使用している同業他社が被告となります。仮に銀行に特許を侵害されたとしても、ビジネスにおける影響を考慮し、取引先である銀行を訴えたりはしないでしょう。
ところが、自社の顧客というものがないNPEは、その特許を侵害してさえいれば、製造業者だろうと銀行だろうと、何の躊躇もなく訴えます。しかもNPEは、自社特許を所有している会社に比べて文書や証人の数も少ないことが多いため、より低コストで訴訟ができるのです。
これはつまり、多額の収益を上げていればどのような企業でも、NPEに訴えられる可能性があることを意味しています。もちろん、通信やソフトウェアの会社等、テクノロジー系の企業がNPE訴訟のターゲットになりやすいのは確かですが、金融機関であれ小売業者であれ、ウェブサイト運営者であれウェブサイト利用者であれ、多額の収益を上げている企業は、業種に関係なく、NPEによって訴えられるおそれがあるのです。
また、NPE訴訟は「時限爆弾」のような働きをすることもあります。
競合会社に特許を侵害された場合、特許権者は速やかに特許侵害を主張して訴訟を行い、できるだけ早く裁判所の差止命令や和解を得ようとします。
しかしNPEは、特許侵害を通知したり、提訴に踏み切ったりする前に、相手が特許技術を使い続けるのを何年も待ちます。長年にわたって特許技術を使用させることで、損害賠償額が増える可能性があるからです。
さらに困ったことに、NPE訴訟の場合、特許権者への金銭の支払いなしに和解に至ることがほとんどありません。一般的に、NPEは自社製品の販売を行っていないため、特許侵害で訴えた相手からのクロスライセンスに興味がないのです。したがって、「技術の利用停止」や「自社技術のクロスライセンス提供」という、通常の特許侵害訴訟で和解のために用いられる手段は、全く通用しません。

最後に、とても重要なことですが、NPE訴訟を含め、たいていの特許侵害訴訟は非常に高くつきます。裁判にかかる手数料や費用の総額は、安く見積もっても数百万ドル、時には十数億ドルに及ぶこともあります。弁護士や専門家証人、文書収集・提出にかかる費用等は、複雑な特許侵害訴訟費用のごく一部に過ぎません。しかも場合によっては、訴訟費用に加え、何百万ドルもの損害賠償を支払うことになる可能性もあります。
つまり、NPE訴訟はお金のかかるやっかいな問題なのです。そして現在、ますます多くの企業が、この問題に直面するようになってきています。


NPEに訴えられる前に講じるべき措置

技術を販売したり使用したりして多額の収益を上げている企業が、NPE訴訟に全く巻き込まれずにすむ可能性は、現状ではほぼ0%に近いといってよいでしょう。しかし、訴えられる件数をできるだけ少なくする方法はあります。

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■標準化に注意する
NPEが好んで訴訟の対象にするものとして、まずは標準化団体がらみの技術が挙げられます。たとえば、携帯電話事業で使われる通信プロトコルやインターネットの電子商取引、電子的にやり取りされる画像のデータ圧縮方法といった技術はたいてい、業界内で合意を得た技術的方法から生まれます。ひとたび標準化されると、その技術は何十、何百もの企業に使われることになります。
そして同時に、NPEがその技術に目をつけることになります。交付された特許の中から、標準で使われる技術をカバーする請求項を探し回るというのは、NPEがよく使う方法です。そしてNPEは、各社が標準化された同一技術を使用していると想定し、基本的にまったく同じ分析に基づいて、その技術を使用している会社を次から次へと訴えていくわけです。
もしあなたの会社が、標準化団体を通じた技術開発に関わっているなら、その技術を使うことにより、団体のメンバーが特許侵害で訴えられることがないよう、注意を払わなければなりません。こうした場合、まずは標準化の作業に参加する全ての企業が、「自社の特許が業界の標準として使われる際、特許使用料なしで、あるいは適正な条件でライセンスを付与する」ことに合意しているかどうかを確かめておく必要があります。
また団体の中に、標準化された技術をカバーしうる特許を所有している会社があれば、それを完全に開示することも大事です。そうすれば、団体のメンバーは、他のメンバーから開示された特許リスクに関する情報に基づいて、適切な標準技術を選択することができるからです。
しかしこのように、メンバー企業によって起こされる特許侵害訴訟のリスクを最小限にするだけでは、まだまだ不十分です。NPEは一般的に、団体メンバー以外の企業が所有する特許を探すからです。関連特許を所有している企業や個人が標準化の作業に参加していなければ、それらの特許のライセンシングに関しては何も保証されていないことになります。こうした特許を取得したNPEは、それまで制約のなかった業界に対して、特許権を行使することができるのです。
そのため、標準化を検討している技術が、第三者の特許を侵害する可能性がないかどうかを、標準の策定段階で検討しておく必要があります。経験豊富な知財弁護士であれば、あらゆる特許を徹底的に調査し、特許侵害の潜在リスクを注意深く分析するでしょう。標準を策定する前にこうした作業を行い、標準に改変を加えることで、特許侵害の潜在的な問題を未然に防ぐことができます。あるいは、メンバーにとって潜在的な問題になりそうだと特定された特許を、標準化団体が買い取ることも可能です。
標準化の初期段階で多少の費用は発生しますが、こうした問題解消の手続きを適切に実施すれば、メンバー企業は、後で発生する何百万ドルもの訴訟費用や特許使用料を節約することができるでしょう。

■技術情報の開示に目を光らせておく
標準化の作業とは別に、自社技術の情報開示の仕方についても、注意を払う必要があります。
NPEが特許侵害訴訟の相手を選ぶ際、最も好んで用いる方法の一つは、「その特許技術を使っていると思われる会社のウェブサイトを閲覧すること」です。たいていの場合、NPEは、ウェブサイトを閲覧して集めた情報に基づいて、特許侵害の初期申し立てを行います。
企業が、顧客にとって重要な自社製品の機能をウェブサイトでアピールしたいと思うのは、当然のことであり必要なことでもあります。しかし私の経験からすると、多くの企業は自社技術について、ウェブサイトで必要以上に詳細に開示しすぎています。
現在ウェブサイトで閲覧できる情報を、今後も同じくらい詳細に開示し続けるかどうかは、最終的にはその会社が決めることです。しかし、「開示する情報が、少ない方が良い可能性もある」ことを頭に入れておくことも大事です。「ミランダ警告」にあるように、インターネット上で発言したことや公開した情報はすべて、「法廷において、あなたに不利な証拠として用いられることがある」のです。

■特許に関する問題を明確化する
新技術を開発する際には、特許に関する問題を明確化する手順を慎重に検討し、実施しましょう。それによって、NPEから特許侵害を主張される可能性を最小限にすることができます。
多くの場合、新技術の開発段階でそうした分析を行い、その技術にNPEの特許を回避する調整を加えることで、結果として、特許侵害問題を未然に防ぐことができるのです。

■ベンダーとは厳しく交渉し、有利な条件を確保する
最後に、他の会社から技術を購入したりライセンスを受けたりする場合、契約書には強力な補償条項を確実に入れておくようにしましょう。技術ライセンス契約や技術購入の契約において、特許侵害補償条項は「細則」として書かれるため、見過ごしてしまいがちです。しかし、契約書に記された補償条項のおかげで、特許侵害訴訟に直面した企業が何百万ドルものコストを節約できることもあるのです。
補償条項の多くは、一見、かなりの保護を提供しているように見えますが、例外事項もたくさん設けられています。そのため、実際に特許侵害を主張された際には、技術を購入した会社が訴訟で戦う羽目に陥る場合が多いのです。
また、たとえ強力な補償条項があっても、補償を提供する側の会社に契約を守れるだけの財務的基盤がなければ、ほとんど役に立ちません。実績が少なく規模の小さい会社から、安い価格で技術のライセンスを受けたり技術を購入をしたりするのは、確かに魅力的です。しかし、多少コストはかかっても、必要な時に力になってくれる可能性の高い、定評のある会社と契約するメリットについても、慎重に検討しましょう。


コラム
  1. 企業が開発した技術が特許化されたものの、結局事業化されずに死蔵しているような場合に、その特許のライセンスを事業として始めたのがNPEの起こりと言われています。特許を集めて他社にライセンスすることを目的とした技術移転会社はパテント・トロールと言いません。訴訟対象となる技術領域を先に決めて、巨額の賠償金やライセンス料を得る目的で企業や個人発明家から安価に特許を買い集め、特許ポートフォリオを作り、訴訟戦略で利益を得ることを目指すのがパテント・トロールです。しかしそのような会社が自らパテント・トロールを称することはなく、表向きは事業をしていたりします。これは裁判に備えて自社で製品開発を行っていることをアピールするためであることが多いのです。
  2. 標準化関連で有名な事例としては、画像圧縮技術で米国企業のAsure Softwareが日本の大手企業を含む世界の主要企業を訴え、一社当たり1千万ドル以上のライセンス料契約を結んだものが有名です。最近では、業界内の基本ソフトウェアの争いをめぐってGoogleがMicrosoftとNokiaに対し、彼らが共謀してパテント・トロールに資金を供与して、Googleのソフトウェアが採用されないように利用していると批判を行い、MicrosoftとNokiaがそれに反論するというような事例もあり、NPEが話題に登ることが非常に増えています。