企業がNPE訴訟に対抗するには(2)

NPEに訴えられたらどうするか?

企業が特許侵害訴訟を防ぐため、最善の努力を尽くしたとしても、やはりNPE訴訟は起こりえます。もしあなたの会社が特許侵害で訴えられた場合には、以下のような措置を講じることをおすすめします。

まず第一に、NPE訴訟において、被告側の弁護経験のある法律事務所に連絡してください。関連する技術分野についての知識や経験がある事務所であれば理想的です。
中には、かつて同じNPEを相手にした、同じ特許をめぐる訴訟に、他社の代理人として対応した法律事務所があるかもしれません。そうした事務所はもちろん、あなたの会社の弁護を担当するのに適任かもしれませんが、だからといって、NPEや関連技術について、同じように知識や経験を持つ他の法律事務所に比べて、費用対効果が高いとは限りません。候補となる法律事務所には具体的な予算を出させ、「過去に経験したことがある分、お安くなります」とアピールしている事務所の費用が他に比べて本当に少ないのか、確かめる必要があります。
また、同じような状況に置かれている共同被告と協力して戦うことも検討してみてください。こちらについては、後で述べます。

第二に、同じ原告から、同じ特許に関して訴えられている会社が他にもあるかどうか、確かめてください。もしあれば、その会社と素早く連絡をとり、どのような状況になっているのか把握するようにしましょう。
他の会社が、すでに共同被告グループを形成し、訴訟に関する費用や情報を共有していることも少なくありません。こうしたグループと連携すれば、たとえば特許の無効化につながるような、先行事例の調査費用などが削減できます。同じような状況に置かれ、同じ原告に対処している他の会社と連絡をとることで、状況をすばやく把握し、十分に情報を得た上で、訴訟においてより迅速に意思決定を行うことが可能となります。

第三に、特許侵害主張の対象となっている技術を、自社でどのように利用しているのか、直ちに調査し特定してください。特許を侵害している具体的な製品やプロトコルが訴状に記されていればすぐにわかりますが、訴状に一般的な内容しか書かれておらず、実際に問題となっているのが何なのか、はっきりしないこともあります。その場合は、すぐに原告に連絡をとり、相手が何をもってあなたの会社を訴えてきたのかを聞くのが、最も単純で合理的な方法かもしれません。
問題となっている技術を素早く特定できれば、「出血を止め」、潜在的な特許侵害の可能性を最小限に抑えることができるかもしれません。その技術があなたの会社にとってそれほど重要でないこともあれば、利用可能ないくつかのオプションの一つにすぎないこともあります。こうした場合、問題となっている技術の使用をすぐに止めるのは、決して難しくはないでしょう。
また、自社のシステムの設計をほんの少し変更することで、特許侵害のリスクを大幅に減らせる場合もあれば、単にオーナーマニュアルやウェブサイトに記された、製品の使用方法を変えるだけですむ場合もあります。特許使用料は、その技術を使用した期間の収益に基づいて算出されるため、こうした代替策をできるだけ早く特定し実施すれば、請求される損害賠償額は少なくなります。
なお、会社によっては、弁護士がそうした変更をためらうことがあります。それにより、「変更を行う前は、そのシステムが特許侵害をしていたことを認めているように見えてしまう」と思い込んでいるからです。
しかし設計の変更はむしろ、その特許技術の見掛け上の価値を下げ、損害賠償額を減らすことにつながります。使われなくなった技術は、簡単に価値を失います。逆に、もし特許侵害で訴えられている会社が、「その技術はほとんど無価値である」と主張しながらも、それを使い続けていたら、陪審は、「それほど役に立たないなら、なぜ使い続けるのか」と疑問に思うでしょう。

第四に、損害賠償額の初期査定を行ってください。すでに特許侵害で訴えられている他の会社に連絡をとることができれば、原告側がどのくらいの特許使用料を求めているのか、見極められるかもしれません。その使用料率を自社の収益に適用すれば、潜在的な損害賠償額を算出することができます。
同じ特許を侵害しているとして訴えられていても、損害賠償額は会社によって大きく異なる場合があります。他の会社はどこも十万ドル未満なのに、ある会社の損害賠償額だけが何千万ドルにもなるということがありうるのです。
弁護士は、早い段階で損害賠償額の見積もりを出すことを避けようと、さまざまな理由をつけるかもしれません。もちろん何事においても、早い段階での見積もりというのは不完全なものです。しかし少なくとも、潜在的な損害賠償額の概算を早めに出しておくことで、相手の訴えに対し、どの程度の防衛策を講ずるのが適切かを見極めることができます。そうすれば、たとえば「何十万ドルも投じ、何か月にもわたって特許侵害訴訟への対応を行ったのに、裁判後半になって損害賠償額がたったの十万ドル未満であることがわかる」といった事態は避けられます。訴えの事実関係と、潜在的なリスクを速やかに評価することで、そうした「損の上塗り」は回避できるのです。

裁判が進むにつれ、絶えず新たな情報が出てきますが、それらが損害賠償額の初期査定にどう影響するか、常に見ていく必要があります。たとえば、裁判が始まって何か月も経ってから、「問題となっているのはこれらの製品である」と考えていた製品群の範囲が広すぎたり狭すぎたりしたことが明らかになり、特許使用料の算出ベースが変わってしまうことがあるかもしれません。訴訟戦略に影響が出る場合もあるため、新たな情報にしたがって、常に損害賠償額の見積もりを調整する必要があります。


NPE訴訟に対抗する強力な武器

defend-250

現在の米国の特許制度で最もがっかりするのは、PTOによって、そもそも特許化されるべきでなかった数多くの技術に、特許が交付されていることです。PTOでは、特許審査の経験を積み、技術にも精通した審査官を雇っていますが、特許認可のプロセスには、特許の誤交付につながりかねない側面がいくつかあるのです。

まず、PTOは仕事を抱えすぎており、審査官は限られた時間の中で、出願された一つひとつの特許を評価しなければなりません。そのため、特許認定の拒否につながりうる、最新の先行事例を見つけられないこともありますし、たとえ先行事例を見つけたとしても、十分に精査できない可能性があるのです。
また、訴訟は当事者間の争いとなりますが、PTOでの特許審査の手続きは基本的に一方通行で行われます。PTOの審査官は出願された特許を慎重に調べる責任を負っていますが、特許出願者は長い年月をかけて、審査官と何度もやりとりをし続け、時には先行事例よりも自分の特許を認可するよう、審査官を説得することもあります。
特許認可のプロセスにおいて、特許出願者が偏った意見を持つ当事者であることは明白です。彼らは、自分の特許が認可されるよう、先行事例の特徴を、自分に有利になるような形で述べるかもしれません。しかし特許認可のプロセスでは、一般的に、競合相手やその他の第三者が審査官に異なる視点を提供することはありません。
そのため、粘り強い特許出願者が審査官を実質的に根負けさせ、本来交付されるべきでない特許を確保することが珍しくないのです。

訴訟においては、特許侵害で訴えられた側に、「PTOがその技術に特許を交付したのが、そもそも誤りであった」ことを証明する機会が与えられます。特許侵害訴訟の被告が、PTOが発見したものよりも良い先行事例を見つけたり、問題となっている発明が、過去に他者によって開示あるいは販売されていたことを証明したりすることも、少なくありません。もしその特許が無効化されれば、特許侵害の主張を完璧に退けることができます。
しかし、訴訟で特許の有効性を争うにあたっては、いくつかの問題があります。
まず、訴訟には費用がかかりますし、「その特許が無効である」と認定されるまで、何年もかかることがあります。その頃には、被告は何百万ドルもの訴訟費用を支払っていることでしょう。特許が無効化されたことに満足しても、そこに至るまでにかかった時間や抱えた不安、コストや本業に集中投下できなかった資源の膨大さ等により、勝利の満足感は確実に色褪せるはずです。

また特許侵害訴訟は、特許を無効化するための環境として、あまりふさわしいとはいえません。
大多数の特許侵害訴訟は陪審裁判で行われます。陪審は自分たちの判断を、経験豊富なPTOの審査官の判断より優先させようとはしません。陪審は、かなり強力な先行事例を前にしても、特許を発行したPTOの決定を尊重します。さらに陪審員は陪審説示の中で、「特許侵害訴訟の被告は、明白かつ説得力のある証拠をもって無効を証明しなければならない」と聞かされています。これは非常に厳しい立証基準です。
特許の無効化を求める訴えは、かなり専門的なものになる可能性があります。先行事例となる文献の言語は、特許が認められた国の言語と異なる場合が多く、通常は技術に疎い陪審に対し、専門家証言による説明を行う必要があります。少しでも異なる見解や、別の解釈を行う余地があれば、特許権者は「先行事例は別物だ」と言ってくれる専門家を必ず見つけてきます。こうして訴えは、結末の見えない、専門家同士の戦いと化してしまう可能性もあるのです。
ただ幸いにも、特許を無効化する、別の手続きも存在します。特許侵害で訴えられた側は、特許を認めたPTOの判断を再度見直すよう、PTOに要請することができるのです。この手続きは、かつては「再審査」と呼ばれていましたが、上院による特許手続きの見直しの結果を受け、内容はほとんど変わらないものの、「当事者系再審査」と呼ばれるようになりました。さらに、最近の特許法改正により、さまざまな方法で、特許への異議申し立てができるようになりました。
本章で、これらの手段全てについて、詳細に説明することはできません。しかし、こうした異議申し立ての手段は、特許侵害で訴えられた側にとって強力な武器となります。訴訟で主張されている特許の有効性について、裁判所ではなく、PTOに異議を唱えることができるからです。簡単にいえば、裁判所よりもPTOの方が、特許の無効化に成功する可能性ははるかに高いのです。

裁判所でなくPTOに対し、特許の有効性への異議を申し立てることには、いくつかのメリットがあります。
まず陪審と異なり、PTOは、以前に下した特許認可が誤りであったことを証明する新たな先行事例や分析を示されれば、過去の自分たちの決定にこだわることはほとんどありません。新たな手続きの真価が問われるのはこれからですが、近年、PTOでは、再審査手続きの対象となった特許の大部分(最大で7割か8割)を無効としたり、特許の範囲を大幅に狭めたりしています。つまり、地方裁判所の陪審裁判において特許が無効とされる可能性に賭けるよりも、はるかに勝ち目があるのです。
また、PTOでの手続きは、最終的に解決するまでに何年も要することもありますが、PTOは手続きの比較的早い段階で、発見した事実を開示するよう義務づけられています。その特許に無効な請求項があるという判断が下れば、訴訟の状況は劇的に変わります。こうした手続き初期の発見は、特許侵害で訴えられている会社を大いに勢いづけることになります。
さらに、PTOに対し特許の有効性への意義申し立てを行うことで、訴訟費用を節約することもできます。
特許の再審査によって生じる最大のメリットの一つは、特許侵害で訴えられた側が、その特許に関する訴訟手続きの「停止」を裁判所に求める根拠ができることにあります。訴訟手続きが停止となっている間、裁判所はPTOの再審査手続きが終わるまで、訴訟を実質的に凍結または一時停止させます。そのため、PTOの最終決定を待つまでの間は、訴訟費用の大部分を節約することができるのです。もちろん、PTOでの手続きの結果、その特許を無効にしたり、特許の範囲を狭めたりすることができれば、その時点で訴訟は終結し、追加でかかる訴訟費用は最小限で済むかもしれません。
「PTOにおける特許の有効性への異議申し立ては非常に効果的で、費用も訴訟より少なくてすむ」ということを主な理由に、上院は最近、法律を改正し、異議申し立ての手続きを修正・強化しました。中でも最も重要なのは、ほとんどの異議申し立てに関して、「PTOがいつまでに再審査を完了しなければならないか」という時間的制限が設けられたことです。これにより、PTOの決定が訴訟に影響を与える可能性がずっと高くなりました。また、PTOの手続きが完了する目標期日が設定されるため、判事が訴訟手続きの停止を認める可能性も高くなります。こうした変更により、PTOで特許の有効性への異議申し立てを行うことは、NPEから特許侵害で訴えられている会社にとって、より魅力的なものとなっています。
もちろん、訴訟ほどではないとはいえ、PTOの再審査手続きにも費用はかかります。どんなケースにおいても適切な解決法になりうるとは限りませんが、PTOの再審査手続きは今後ますます、多くのNPE訴訟において、被告側の企業に好まれる選択肢となることでしょう。


コラム
  1. 日本国内でNPEが問題になることが少ないため、国内の法律事務所にはノウハウが蓄積されていないことが多く、実案件が発生した場合には海外法律事務所に対応を求める事が多くなります。法律事務所の選定には、法律知識にとどまらず、対象となる技術領域への知見も重要なので、選定の際には充分に留意する必要があります。海外には日本で言う弁理士といった資格はないため、法律事務所の実績や弁護士個人のバックグラウンドからその能力を判断する必要があります。
  2. 特許異議申立は、知財訴訟の際の対応方法としては、比較的低コストです。2009年の米国知的財産権法協会による調査では、特許異議申立にかかる費用の中間値が19万ドル程度で、25百万ドル以上の損害賠償規模の訴訟費用中間値5百5十万ドルと比べると96%安い結果となっています。異議申立て請求者のディスカバリーや反対尋問が無いのもメリットです。裁判所が特許無効の判決をした事例もあり、2012年のDigitech Image Technologiesがデジカメ関連企業を訴えた事例で、富士フイルム社やコニカミノルタ社等9社がDigitech社の特許請求項が無効であるとして争い、裁判所は原告のNPE敗訴の略式判決を出しています。