企業がNPE訴訟に対抗するには(3)

損害賠償額はどう算出されるか?

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伝説によれば、米国の西部開拓時代の犯罪者であるジェシー・ジェイムズは、「なぜ銀行を襲うのか」と訊かれて、「そこが、金があるところだから」と答えたそうです。
NPE訴訟の原告も同様であり、すべてはお金のためなのです。また競合会社間の、従来型の特許侵害訴訟においても、損害賠償はたいてい重要な要素となります。いずれにせよ、特許侵害訴訟において損害賠償額がどう算出されるのかを理解しておくことは大事です。

特許法上、特許を侵害された特許権者には、「適正な特許使用料を下回らない」額の損害賠償を受ける資格があります。したがって、特許使用料は損害賠償請求額の最低ラインとなります。一般的に特許使用料は、その特許技術を使用して得た収益に、使用料率をかける形で計算されますが、NPEはしばしば、一定額の使用料を一括で払うよう求めてきます。
状況によっては、特許権者が特許使用料を上回る額の損害賠償を得ることもあります。そうなるのは通常、特許侵害のせいで利益を逸失したということを特許権者が証明できた場合です。
NPEは競合製品を販売しているわけではないため、逸失利益を回収する立場にはありません。別製品の販売なくしては、逸失売上に対する逸失利益というのもありえないのです。つまり、NPE訴訟における損害賠償額は、ほとんどの場合、適正な特許使用料に基づいて計算されますから、ここでは特許使用料の算出に焦点をあてて考察することにします。
裁判所や陪審は、適正な特許使用料を設定するにあたり、15個ほどの要素を考慮します(陪審に対しては、裁判所が指示します)。これらの要素はおおむね、特に具体的に説明する必要がないほど常識的なものです。たとえば、発明の商業的成功や、発明に起因する利益などが、これらの要素に含まれます。
侵害行為が始まった時点で、特許権者と、特許を侵害したと訴えられている者との間に交渉が成立したと仮定した場合、どの程度の特許使用料が設定されるかを見極めることが、非常に重要となります。

もちろんこれは仮想的な交渉であり、多くの場合、特許権者と特許を侵害したと訴えられている者とが交渉の席につき、何かに合意するということはありえません。この仮想的な交渉は、「その特許が有効である」「その特許が侵害された(これについては別途証明される必要があります)」「特許の許諾に関して確かに交渉が行われた」「両当事者が合理的なビジネス関係者として振舞った」といったことを前提としています。
ほんの数年前まで、裁判所は陪審が決定した損害賠償額を非常に尊重してきました。陪審が、原告側が求める高めの金額と、被告側が提案する低めの金額との間の何らかの金額を提示する限りにおいては、裁判所は通常、その金額には合理的根拠があるものとみなしました。裁判所はそれ以外の問題――たとえば「その特許は有効であり、かつ侵害されていたのか」といった――に、より関心を持っていたのです。
しかし近年、裁判所は損害賠償額を、より慎重に精査するようになってきています。これは主に、NPE訴訟の価値をめぐる議論において、損害賠償の裁定額がより注目を浴びるようになってきたためです。「NPEには、逸失利益の回収という名目で、より高額な損害賠償を受ける資格はないが、NPEが実際に受け取った損害賠償の平均額は、競合会社間でおこる通常の特許侵害訴訟における損害賠償の裁定額を上回っていた」とする研究もあります。「損害賠償裁定額があまりにも大きすぎる」というのが、NPE訴訟が批判を受ける大きな理由の一つとなっています。
こうした世間の批判に応えるように、裁判所が、陪審による損害賠償裁定額を覆す判決を下すことが増え、損害賠償額の算出方法について、より多くのルールや制限が設けられるようになりました。この傾向は陪審にも影響を及ぼしており、損害賠償裁定額が以前よりも予測しやすくなっています。
新たに作られたルールの一つに、「特許権者が損害賠償を求める際、特許技術が使用された範囲を広く見積もって特許使用料を算出するのを制限する」というものがあります。従来、NPEは、その特許技術に何らかの形で関係していそうな相手企業の収益すべてを、特許使用料を算出する際のベースとすることで、多額の損害賠償請求が、さも妥当であるかのように見せてきたのです。

たとえばある特許が、マイクロソフトアウトルックのカレンダー機能の、重要度の低い追加機能に関係していたとします。その場合NPEは、ノートパソコンのメーカーを提訴し、「わずかなパーセンテージにすぎない」と主張しつつ、搭載ソフトも含めたパソコン全体の売上げに対して特許使用料を求めます。NPEは、問題となっている追加機能が、販売されている製品の一部に過ぎないことを認めたうえで、「1パーセントにも満たないようなわずかな特許使用料しか求めていないのだから、自分たちは妥当である」と主張します。しかしパソコンの売上げが、総額何十億ドルにものぼることがあることを考えると、たとえ特許使用料率自体は低くても、合計では何千万ドル、何億ドルという額になるのです。
最近の判例は、裁判所がそうした算出額を認めることを抑止しており、裁判所や陪審が特許使用料を計算する際には、商業的に特定することが可能な、最小の特許使用料算出ベースに基づくよう推奨しています。
上記の例の場合、特許使用料は、ノートパソコンおよび搭載ソフトの価格をベースとするのではなく、マイクロソフトアウトルックのアドオンソフトの価格のみに基づいて計算されるべきです。別の例をあげるとすれば、仮にある特許がコンピュータのメモリ容量の拡張機能に関係している場合、特許使用料は、コンピュータ全体から生じる収益ではなく、その機能を含んでいるチップから生じる収益のみをベースに計算されなければなりません。
また、最近の判例は、NPE訴訟における潜在的な特許使用料の算出方法についても、かなり詳細な指針を示しています。まず第一に、システムのどこに、特許技術であると主張されているものがあるのかを確かめます。次に、その技術を使っていて、しかも商業的に価格を算出することができる、最小構成部分を特定します。そして最後に、そのベースに基づいて、特許使用料率と損害賠償の概算額を計算するのです。

他に、最近の裁判に見られる傾向として、「同じ特許に関する、他のライセンス契約との関連性を、裁判所が重視するようになってきた」ことが挙げられます。
かつて裁判所は、特許権者が他の特許侵害者との間で締結したライセンス契約の内容を、参考にすることはありませんでした。そうしたライセンス契約のほとんどは、裁判が始まった後に締結されたものであったため、裁判所はそれらを、訴訟によって妥協に至ったものであるとみなし、証拠として全く認めないか、たとえ認めたとしても、事案との関連性は非常に低いと考えていました。
しかし最近の判例においては、ある訴訟に関係する特許と同じ(複数または単数の)特許に関する他のライセンス契約こそが、適正な特許使用料を算出する指標となるのではないか、ということが示唆されています。そうしたライセンス契約の多くは、従来同様、訴訟による妥協の産物として締結されたものですが、今日では、裁判所はそれらの内容を証拠として認め、より大きな拠り所とするようになっています。
このように、実際のライセンス契約がより重視されるようになったことは、特許侵害で訴えられた側にとってはおおむね有利に働いており、損害賠償額を以前よりも少なく見積もれるようになっています。そしてNPEは、特許侵害請求訴訟において、裁判で求めていた額よりもはるかに少ない損害賠償額で和解することがしばしばあります。
NPE側の目的は、特許技術を元手にできるだけ早く、できるだけ多額の金を回収することにあります。裁判では、金銭の支払いを受けられるまでに何年もかかることもあるため、他の特許侵害訴訟の原告同様NPEも、たとえ額は少なくとも、裁判の早い段階でお金を回収することを受け入れることが多いのです。それが、特許の価値をお金にかえる、最も費用対効果の高い方法だからです。

NPEはこれまで、本来両立させられるはずのないことを、事実上両立させてきました。まず、できるだけ早く金銭を受け取るため、和解契約を締結し、さらなる特許侵害訴訟を行うための軍資金を手に入れます。そして、次の特許侵害者との裁判に臨む際には、過去の和解契約の内容――現在裁判で求めている額よりもはるかに少ない損害賠償額――が、陪審の耳に入ることすらないよう阻止します。ですから陪審は、NPEが現実にはずっと低い額でライセンス契約をしているということを知らず、実際よりも高く設定された損害賠償請求を妥当で適正なものであると思い込んでしまう可能性がありました。
しかし現在では、こうした少額での和解契約内容が、裁判所で陪審に提示されるようになりました。特許侵害で訴えられた側はこれらを大きな拠り所として、NPEによる誇張された算出額が現実を反映したものではないことを証明し、陪審による損害賠償裁定額を抑えることができます。
このような、損害賠償額分析の判例における傾向を考慮すると、裁判のごく早い段階で、NPEが過去に締結した和解契約に関する情報を入手するのは、非常に有益であると言えます。そうしたライセンス契約については、自ら開示しなければならないことになっていますが、多くの場合、NPEは詳細な情報を出し渋ります。
なお、ライセンス契約の内容と支払われた損害賠償額がわかっただけでは、十分とはいえません。「被告側は何年間にわたって特許技術を使っていたことになっているのか」「特許技術を使った活動により、どれだけの収益を上げていたのか」「通常の和解契約では一時金が支払われることになるが、それは実際の収益源の何パーセントにあたるのか」等、和解契約を締結した被告側の活動に関する情報も必要です。NPEはこれらを非常に査定しにくくするでしょうが、ある程度努力すればデータを入手することができますし、断片的な情報をつなぎ合わせれば、おおよその特許使用料率を算出することも可能です。

適正な特許使用料率と、適正な特許使用料算出ベースを特定することにより、裁判の初期段階で、非常に適正な潜在的損害賠償額を試算することができます。この計算を自分たちで行っておくことは、訴訟戦略を立てる上で非常に重要です。
NPEはたいてい、ひどく高い損害賠償額を提示してきて、その何分の一かの額で和解にこぎつけようとします。何分の一かであっても、彼らにとっては勝利なのです。裁判において、特許侵害で訴えられた側が、NPEが提示した特許使用料を指標にしてしまうと、潜在的損害賠償額を過大評価することになってしまうでしょう。しかし、前もって適正な額を試算しておけば、訴えられた側は、それを損害賠償額を計算する上での合理的な根拠とし、NPEの提示額よりはるかに小さな金額を逆提案することもできるのです。
NPE訴訟に直面したどんな被告にとっても、最も望ましい結末は「責任がなく、損害賠償も発生しないことが確認される」ことです。しかし、特許侵害をめぐって争うためにかかる費用に比べ、NPEへの支払金額がそれほど大きくないのであれば、あるいは、コストやリソースを複雑な特許訴訟への対応に振り分けるのを避けたいと被告側の会社が思うのであれば、和解を検討するべきです。早期に損害賠償額の査定を行えば、NPEが提示している額の誤謬がすぐに明らかになるでしょう。より妥当な算出ベースに基づいて計算した損害賠償額をもって、NPEにプレッシャーをかければ、裁判所で特許侵害をめぐって争うかわりに、合理的な和解に達することができる可能性は高くなります。
仮に和解に達することがなかったとしても、裁判の初期段階で損害賠償額を正確に査定しておくことは、さまざまなメリットをもたらします。NPEが損害賠償額を大きく膨らませてきた場合には、査定の結果を説得力のある根拠として、反論することができるからです。また、たとえば最悪の場合に備えて準備金を取っておくなど、より適切な財務計画を立てることもできるようになります。


NPE訴訟で勝利するために企業がやるべきこと

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特許侵害訴訟は非常に複雑なものであり、経験を積んだ弁護士が必要になります。
特許侵害訴訟の手続きの大変さに圧倒される企業は多いでしょう。それが初めての特許侵害訴訟であれば、なおさらです。しかし私の経験からすると、クライアント企業の役員の方々が、勝訴を獲得する上で役に立つ情報その他を提供してくださることは少なくありません。
たとえ法学の学位を持っていなくても、クライアント企業の方々が訴訟のためにできることはあるのです。以下に、いくつかの例を挙げておきます。

1.訴訟の進捗に関与し続けてください。どんなケースであっても、弁護士とクライアント企業の役員が定期的に電話で話し合うことには意味があります。2週間に一度くらいの頻度で電話をすれば、訴訟における新たな動きが、確実にクライアントに伝わります。
しかし同じくらい大切なのは、定期的に電話で話すことで、クライアント側が市場における新たな動きのうち、訴訟に影響を与える可能性のある事柄についての最新情報を、弁護士に伝えることができる点です。たとえば、企業買収があれば、訴訟における力関係が大きく変わるかもしれません。

2.強力な専門家証人を探し出すため、人脈を駆使してください。特に特許侵害訴訟では、専門家証人が最も重要な証人になることがあります。
当然のことながら、専門家証人として理想的なのは、特許あるいは損害賠償額について論じるにふさわしい技術や財務の知識を備えている人です。専門家証人が、評判の高い大学で取得した立派な学位の持ち主であったり、その分野の第一人者として知られており、そうした学位を持っているのと同等であると認知されていたりすれば、なお良いでしょう。
しかし、少なくとも同じくらい重要なのが、専門家証人のコミュニケーション能力が高く、「上からものを言っている」という印象を与えることなく、専門知識を持たない陪審や裁判官に対して物事を教えることができる人であるかどうかです。証人候補者がこうしたスキルを持っているかどうかは、履歴書やネット上に書かれている経歴を見ただけでわかるとは限りません。
こうしたさまざまな条件を満たす最良の専門家証人を探し出すのを手伝うことで、クライアント企業は大いに弁護士を助けることができます。たとえ専門家を直接知らなくても、業界のネットワークの中に、専門家証人の有力な候補者を知っている人がいる、ということはよくあります。
専門家証人探しは、裁判のできるだけ早い段階で行った方がよいでしょう。そうすれば、クライアント企業を信じる専門家と共に、裁判の論点について検討することができますし、相手よりも先に、最高の専門家を確保できるからです。

3.訴訟の手続きに関して、遠慮せずにどんどん「バカな質問」をしてください。弁護士は裁判において、しばしば「これまでずっと、そのやり方でやってきたから」という理由だけで、決まった行動をとってしまいがちです。もちろんほとんどの場合、同じやり方をとるのはクライアントの最善の利益のためであり、それ相応の理由があります。
しかし、裁判はいつも同じように進むとは限りません。弁護士がとろうとしている手段があまり腑に落ちないものであった場合、それが「単に自分たちが、何が起こっているのかよくわかっていないからだ」とは思わないでください。
私は過去に何度か、クライアントと話し合いをした結果、戦略を大幅に変更したことがあります。多くの場合、こうした話し合いのきっかけを作ったのは、クライアントからの「基本的な質問」でした。「弁護士が何を行っているのか」「なぜそれを行っているのか」について、いくつか基本的な質問をされたわけです。
はじめのうちは「訴訟についての基本的な情報を、弁護士がクライアントに教える」という感じだったのですが、話し合いが進むにつれ、より戦略的な面に踏み込んだ内容となっていきました。そして私はやりとりをする中で、そのクライアントの、あるいはその裁判の特有の事情を鑑みて、当初の戦略プランをいくらか修正した方がよいという結論に至ったのです。

4.自社の立場をより良くするため、裁判以外の解決方法を検討してみてください。
ビジネスの世界においては基本的に、「裁判は、その他の解決方法をすべて検討し尽くした後にとるべき、最後の手段である」と考えられていますが、残念ながら NPEはしばしば、最初の手段としてNPE訴訟を使います。これは、「訴訟を起こした方が、特許侵害を申し立てた相手からより多くの金を搾り取れる」とNPEが考えているからかもしれません。
またNPEは、提訴する前に、特許侵害を申し立てた相手と連絡をとろうとはしません。そうすることによって相手が、「自分たちで選んだ裁判所で特許確認訴訟を起こし、特許自体を争う」という先制攻撃を仕掛けてくるかもしれない、と恐れているのです。
理由はどうであれ、NPEと特許侵害を申し立てられた企業はたいてい、訴状が送達された時に初めてやりとりをします。そうなると、両当事者間はその後、どうしても訴訟という形で争うことになってしまいがちです。
しかしクライアント企業の多くは、裁判で争うことなしに問題を解決することに慣れています。そうしたスキルは、NPE訴訟においても役に立つことがあります。裁判がすでに始まっていても、です。
たとえば、問題のビジネス的な解決を図るという目的で、NPEと役員同士の会談を行うことも可能です。NPEの役員は、クライアント企業と同じ業界の出身者である場合が多いため、もしかしたらクライアント企業の人間が彼らを知っているかもしれません。あるいは、クライアント企業側に、ビジネス上の理由で購入したい、または売却したいと考えている特許があり、NPEがそれに興味を示す可能性もあります。
そうしたビジネス上の取引によって、訴訟が解決することもありうるのです。


コラム
  1. NPEによる訴訟が活発になる一方で、米国では新たなサービスとして、企業向けに知財訴訟に対する防衛サービスを提供する会社も出現してきています。NPEと一般企業と比べると、NPEの方が特許訴訟に関してより豊富な情報を持っているのが一般的で、この情報の非対称性を利用してNPEは和解を有利に進める戦略を取ってきたのです。このような防衛サービスを提供する企業は企業内の法務部門に対して、知財訴訟の動向に関する情報提供や、長期的な知財戦略やそれに伴う特許獲得計画についてアドバイスを行います。
  2. 知財訴訟での防衛施策として特許を取得することは良く行われます。グーグルがモトローラ社を買収したのは、モトローラ社が有する特許を取得することで、携帯電話会社間の特許訴訟に対抗する目的が大きいと言われています。当然NPEに対しても特許取得は有効ですが、規模の小さい企業では有効な特許を一定規模で取得するのは難しいので、米国では会員制の防衛型NPEというようなサービスも出現しています。会費を払うと、会員企業はそのNPEが有する特許ポートフォリオを自社がNPEの訴訟に曝された際に、防衛用に使えるようになるサービスです。